トイレに逆さまの金太郎がいる
突然ですが、トイレに逆さまの金太郎がいて困っています。
これでは何が何だかわからないとおもうので(私も何が何だかわからない)、順に説明していこうとおもう。
我が家にはトイレがふたつある。田舎の一戸建てには珍しくないことだが、一階と二階とでふたつ。今回問題なのは二階の方だ。
二階のトイレはいわゆる洋式トイレで、およそ半畳くらいの大きさ。左が廊下へ続くドア、後ろに小窓、左下に予備のペーパー、右壁に一軍のペーパー、という配置である。通常なら、正面の壁には四季折々の花の写真があしらわれたカレンダーがいるはずだった。
それが今日、何気なくトイレに入って腰を下ろし、目線を上げたら、逆さまの金太郎と目があったのである。
やはり言葉で説明しても伝えたいことの半分も伝わっていない気がする。百聞は一見に如かず、とりあえずこちらの証拠写真を見て頂きたい。
お分かり頂けただろうか。
auのCMの、あの金太郎である。彼が見事にカレンダーの残り全てのパーツを支えている。
いくら物語上の金太郎が力持ちだからと言って、これはさすがに荷が重いのではないだろうか。なんせ逆立ちである。見たままで言えば、逆さ張り付けである。
この状態で乙姫の笑顔を守れと言うのか。さすがに厳しい。そもそも他の桃やら浦島やらの太郎はどこへ行ったのだ。
めくって見たらいました。
桃も浦島も、支えてもらっている分際でカッコよく写っていた。
そもそもこのカレンダー、どう見ても卓上カレンダーである。
普通の神経をしている人間なら、三角柱の形をしているカレンダーを壁に貼ろうとはおもわないだろう。なぜなら壁に貼るにはあまりに立体的すぎるし、めくりづらすぎるからである。
こんな限りなくアホな行いをする人間は我が家にはひとりしかいない。
母(47歳)である。
用を足すたびに笑いを我慢しなければならないという非常に困った自体に、早々に参った私は母に異議申し立てをした。
「なにこれ?」と。
「これ卓上カレンダーでしょ?」「いつもの花のやつはどうしたの?」と。
母はケロッとして「かわいいでしょ」と言ってのけた。
当然だとでも言いたげな様子である。何なら少し誇らしげである。
それを聞いた私は、もうなにを言っても馬耳東風であるとおもい、「そっか、うん、いいんじゃない」とヘラヘラして部屋を出た。すぐ諦めるのは私の悪い癖である。
実際は何ひとつよくないというのに。なにが「いいんじゃない」なのか。
モヤモヤしていると尿意が襲ってきた。しぶしぶトイレに入ると、当然目の前には金太郎。
おまえのせいでこちとらいらんモヤモヤを抱えてるんだぞ、とおもいながら見ていたんだが。笑顔の金太郎を見ているうちに、どこからか同情のような気持ちが湧き上がってきた。
彼も彼なりに頑張っているのだ。身に余る大役を任されて、それでも笑顔を絶やさず、任務を全うしようと粉骨砕身しているのだ。私もこんなところでモヤモヤしている場合ではない。
なぁ、金ちゃん。俺たちこんなところで終われないよな。…これは、この任務が終わったら言おうとおもってたんだが、今言わせてくれないか。俺は金ちゃんに一回も相撲で勝てたことはなかったが、勝手に金ちゃんのこと、ずっといいライバルだとおもってたんだぜ。ははっ、よせったら、まさかりはさすがに痛てーって。なんだよ、泣いてんのか?ったく、金ちゃんは昔っからそうだよな……
ここら辺まで来て、猛烈なノックが私を現実に引き戻した。
「ちょっといつまで入ってるの!?早く出て!!」
母(47歳と7ヶ月)である。
トイレがつい長くなってしまうのも、私の悪い癖である。