5月病な日々

脚色と虚構

電気屋のマッサージ機でダメになる

弱冠21歳にして腰痛が悩みだ。

基本的には至って健康体な私だが、腰に関しては弱い。長時間立っているとすぐに調子がおかしくなる。仕事柄そんなことは言ってられないので現在は放置しているのですが。

腰痛の原因は明確で、一昨年の夏頃から仕事の時間、頻度、ハードさが総合してどんどん上がり、下手な新卒より給料が多くなる代わりに休みは月一などといったふざけたスケジュールをこなしていた。

ダブルワークだったんだが、どちらも接客で立ち仕事。長時間労働に加えインドアの身にはきつい肉体労働もあり、二つの仕事を一日ではしごしたりなどもしていたため睡眠時間の確保も十分にできていなかった。

結果、去年の今頃くらいだろうか、眠っても治らない腰痛に気づいた。まぁ忘れた頃に治るだろうとおもっていたんだがこれが一向に治らず、一ヶ月を越えたあたりから我慢できなくなる程の痛みに変わり、これはいよいよおかしいとおもい、無事通院といった次第である。

現在はダブルワークの片方を比較的楽な仕事に転職し、勤務日数も無理のないようだいぶ減らしている。

だが、通院するのが遅かったせいか、腰痛を感じやすい体になってしまったようで。

日々慢性的な腰痛に悩まされている私だが、友人であり先輩であるMさんの買い物に付き合っている時、偶然オアシスを見つけてしまった。

それが電気屋のマッサージ機である。

個人的にマッサージ機といえば温泉というイメージがあるんだが、だいたいの温泉では有料。私の中ではセレブの乗る物だった。

しかし、電気屋のマッサージ機は電気屋側がその性能を試してもらうためのもの。もちろん無料で享受でき、その上種類も豊富ときている。

マッサージ機コーナーでは、既にマッサージ機にほだされた者たちが快感に身を委ねていた。

それは少し異様な光景であった。ほとんどがご老人で、皆目を瞑っている。ちょっと死んでいやしないかと心配になる。

電気屋といえばどこもうるさいぐらいの店内CMがかかっているが、それすらも耳に入っていないかのよう。その空間だけはリラックスした空気に包まれていた。

これは是非ともあやかりたいと、私とMさんはごく自然な動作で手頃なマッサージ機に腰を下ろした。

それにしても、最近のマッサージ機というものは本当にすごいですね。

「匠」というマッサージ機があったんだが、まさに匠としか言いようがない手腕。目を瞑ると人間に揉まれているような錯覚に陥るほどである。

匠以外のマッサージ機も試したが、どれも素晴らしい揉みっぷり。 だがやはり値段が高い方がクオリティが高い気がする。こちらは足をすっぽり覆っていてよいが、頭の置き所がしっくりこない。一方あちらは寝心地最高だが、揉み方が少し荒い。

などと、私がひとりでマッサージ機評価をして遊んでいる内に、Mさんは三十万円のマッサージ機の手にかかり爆睡していた。電気屋で睡眠を取る22歳。さすがに面白い。

かれこれ一時間以上は揉まれただろうか。

Mさんは半分寝ているような表情、私は恐ろしく軽くなった身体に感動しつつ帰路についた。

しかも驚いたことに、慢性的な痛みを抱えていた腰が爽快なのである。これには心から感謝した。感謝と感動のあまり危うくマッサージ機のローンを組むところであった。

その日以来、私の心に電気屋のマッサージ機が住み着いた。

朝起きたら「むくみを取るためにマッサージされたい」、出かける時も「このまま電気屋に向かいたい」、仕事中も「腰が痛くなって来たからとりあえず揉まれたい」。とにかくいつでもどこでも、事あるごとに電気屋のマッサージ機欲が首をもたげるのである。

どうやら電気屋のマッサージ機は、私の身体をほぐしただけでなく、心までもを掴んで離さなかったようだ。

今の私は完全に恋する乙女。事もあろうに相手が電気屋のマッサージ機ですが。

今これを書きながらも考えているのは電気屋のマッサージ機のことである。寝ても覚めても電気屋。箸が転んでもマッサージ機。

もはやただのバカである。