5月病な日々

脚色と虚構

都合が悪いと走って逃げる

「逃げ恥」という言葉は記憶に新しい。

ご存知の通り「逃げるは恥だが役に立つ」というドラマの略称である。大天使ガッキーとサブカル界の勝ち組星野源の「恋ダンス」を始め、社会現象と化したドラマである。

今回は別にドラマの話ではないんだが。

突然ですが「逃げるは恥だが役に立つ」という言葉、皆さんはどうおもいますか。

それまで聞いたことのなかった言葉だったのでGoogleで調べてみたところ、ハンガリーのことわざらしい。原文は「Szégyen a futás, de hasznos.」。これだけ出されてももちろん意味も読み方すらもわからないが、普通に生きていればSzégyen a futás, de hasznos.などという字面に遭遇することはないので安心してほしい。

逃げるは恥だが役に立つ」、読んで字の如く、何かから逃避することは恥であるが時には役に立つこともある、ということ。確かにそうである。例えばいわゆるブラック企業など、劣悪な環境下に身を置き続けることはマイナスにしかならない。限界になる前に全部投げ出してしまった方が結果的にはよいということもある。しかし、基本的に「逃げる」ということはよろしくないのもまた事実なわけで。

そんな私が自分の悪いところはどこかと聞かれた時、まず真っ先に思い浮かぶことのひとつが「逃げグセ」なのである。特に最近の自分の逃げっぷりには目を見張るものがある。

私は就活をしている。説明会に行ったり履歴書を書いたり、面接を受けたりと忙しい日々である。

それまでアルバイト先と家と学校の往復で生活が完結していた人間が、突然見知らぬ大人と顔を突き合わせ、自己PRだの志望動機だのをもっともらしく語り続けるとどうなるか。

疲れるのである。

選考を進めていたある企業の最終面接の日、朝起きて、まず「ダルいな」とおもった。さすがにダルいだけで最終面接をすっぽかすほど馬鹿ではないが、これは一歩間違えると全てを無に帰すレベルのダルさだな、とはおもった。

のろのろと支度をして外に出ると、大雨が降っていた。これはヤバいかもしれない。あとひとつ何かあれば選考をすっぽかす、という確信が持てた。

車に乗り、地図アプリで選考が行われる本社の場所を調べた。片道45分、しかも規模から言って駐車場が併設されていない疑いが浮上した。(私は大抵当日の朝にアクセスを調べるため、しばしばこのような想定外のことが起こる)

もうダメだ。終わった。と、おもった。

脳内で自分が走って逃げていくのが見えた。困難を目の前にして心が折れる時、必ず見えるイメージである。これが見えた時は何もかもダメなのだ。私は真顔で、リクルートスーツのまま図書館へと車を走らせた。その日は一日中本を読んで過ごした。

結果として、ダルいだけで最終面接をすっぽかすほどの馬鹿だと証明してしまった。よもやこんなことになるとは。つくづくどうしようもない人間である。

先日、『深夜のダメ恋図鑑』という漫画を読んだんだが、そこに「都合が悪いと走って逃げがちな女」が出てきて笑ってしまった。

 

 

深夜のダメ恋図鑑』は三人の女がそれぞれ語り手となって、様々な種類のダメ男との恋愛話を一話完結で繰り広げる、という内容である。

問題の「逃げ癖女」は話のオチに使われる役どころで、少女マンガばかり読んだ結果、少女マンガに憧れすぎてリアルな恋愛が受け入れられないというキャラクターである。

この女はそそくさと布団を敷く男の「肉食感」や、風呂に浮く「体毛」などといった通常「ちょっと嫌なのはわかるけど仕方ないから妥協する」部分にドン引きし、男の家であったりホテルであったりから走って逃げ出す。

私はこの漫画をMさん宅で読み、爆笑していたのだが、Mさんの「こんないちいち逃げてたら生きていけないよね」という言葉でフッと真顔になってしまった。

こんないちいち逃げてたら生きていけないよね。

全くその通りである。都合が悪いからといって走って逃げてばかりではいけない。実際これまで、この悪癖のせいで大変なおもいをしてきた。例えば……。

10分考えたが、出てこなかった。毎回どうにかなってしまっているし、そもそも悪いことはあまり覚えていないのである。

都合が悪いと走って逃げ出すばかりでなく、都合が悪いことは忘れる馬鹿だということが露呈してしまった。よもやこんなことになるとは。つくづくどうしようもない人間ですね。