5月病な日々

脚色と虚構

孤独な後悔の話

大学のサークルの飲み会でいちばん盛り上がっている輪に入れず、さほど親しくもない者たちと3秒で忘れるような会話をした。疲れ果てて家に帰り着き、靴下を脱ぐと穴が空いている。なんということだ、今日の飲み会は座敷だったというのに。

ひとりぐらし6日め、恋人にはじめてコーヒーを淹れた。コーヒーを淹れることには少し自信がある。続いたのは別れようという話だった。

恋人とは大学の新歓で出会った。新歓で顔見知りになったおれと恋人を含めた何人かのグループで行動するうち、ごく自然におれたちは恋人になった。あの日から2年と4ヶ月と幾日かが過ぎた。おれは恋人の顔を見る。よく知るはずのその顔に、なんだか違うひとみたいだ、という感想を持つ。恋人が言う「あなた、なんだか違うひとみたいな顔をしてる」。

おれと恋人は何もかもがちがった。どこでも好きに旅行できるとして、おれはベトナムを選ぶが恋人はグアムか韓国を選ぶようなひとだ。そんな恋人を、斜め後ろからまぶしい気持ちで見ているような日々だった。

恋人のたましいを汚すのは本意ではない。慎重に言葉を探り、しかしこんな時のための言葉の用意はしていなかった。仕方がないので、そう言うとおもった、と笑う。恋人は驚いて「すごい!なんでわかったの?」と笑った。やっぱり違うひとだ、とおもいながら、すごいと褒められたことがやけに嬉しく、別れ話がスムーズに運ぶよう気を使ってしまう。こんなに必要のないサービス精神があろうか。そうしておれはひとりになった。

酔って霞がかかったような頭で考える。おれは恋人に何かしてやれただろうか。自分を卑下し続けるおれを肯定し、おれの下らない台詞で声を立てて笑い、おれの取るに足らない自意識も、なかったことにはできない間違いも、全て見ないふりをして側にいてくれた。何故おれは六畳一間のワンルームにいるのだろう。一緒に住もう、と言えばよかったのに。

穴の空いた靴下をゴミ箱に放る。話が終わっても恋人が口をつけることはなかったが、最後にコーヒーをご馳走できてよかった。今のおれには何もない。