5月病な日々

脚色と虚構

焼肉ほいほいという寝言

「全部ペケじゃん。焼肉ほいほいじゃないよ、まったく。予習復習だからね」

一体何事かとお思いだろう。これは、我が母(47)が発した寝言である。

まず状況から説明させて欲しい。事件は、私がいつも通り眠りに就こうと布団に潜った時に起きた。時刻にして深夜3時過ぎ頃、上記の台詞が暗闇に響いたのである。

私の寝床は二階の最も奥に位置し、私、弟、母の三人で、いつも仲良く眠っている。ちなみに、弟は姉である私と母に挟まれている形である。思春期なのに哀れとしか言いようがないが、強く生きて欲しい。

弟のことはひとまず置いておいて、母の話をしよう。

前提として、彼女は結構頻繁に寝言を言っている。だいたい私が寝ようとすると「いらっしゃいませ」などと言って驚かせてくるのだ。当然彼女に悪気は一切ない。意識がないので当たり前である。

母の寝言をランキング形式で紹介すると、

1位 いらっしゃいませ

2位 ありがとうございました

3位 おにぎり100円セール開催してまーす

である。

もうお分かりかとおもうが、彼女はコンビニエンスストアでアルバイトをしているのである。どうやら夢の中でも働いているようで、私としては家なんだが店なんだかわからなくて混乱してくるんだが、もちろんやっぱり母に悪気はない。

ちなみにおにぎりと並んでおでんセールも頻出していたが、季節柄か押され気味である。

しかし今回の寝言はどうだ。

まず、「 全部ペケ」や、それを受けての「予習復習」と言っていることから、彼女は子供たちの試験の答案用紙でも見ているのだろうと推察できる。しかも全部間違っていて、ご立腹の様子。できの悪いのは夢の中でも健在らしい。

ここまではわかる。

問題なのは「焼肉ほいほいじゃないよ」である。

普通に暮らしていれば「焼肉ほいほいじゃないよ」などと言われてはいそうですかとはならない。そもそも焼肉ほいほいって何だ。恐ろしく流暢にはっきり喋っていたので聞き間違いではない。母は確かに「焼肉ほいほい」と言った。

成績が悪かったから焼肉に行く予定をほいほい無しにした、という意味だろうか。だが我が家は滅多に外食に行かないし、焼肉などというものはいよいよ食べない。

では逆に、成績が悪かったから焼肉ほいほいという名の何らかの罰を与える、という意味だろうか。しかし我が家は成績が悪くとも処罰を受けることはほとんどない。

そもそも文の構造的に、「焼肉ほいほいじゃないよ、まったく」なので上記二つは噛み合わない。

そうして考えていたんだが、間違っていた試験の解答が焼肉ほいほいという言葉だった、というのを思いついた。これは構造的にもおかしくはない。もうこの説が正解な気がしてきた。

年齢的に試験の出来が取り沙汰されるのは弟である。帰宅した弟は、返却された答案用紙をカバンから出さずにこの場をやり過ごそうとする。

しかしコンビ二バイトから帰ってきた母は、弟が風呂に入っている間にカバンを探るのだ。哀れな弟は0点の答案用紙を風呂上がりに突きつけられる。

母は言う。「全部ペケじゃん!焼肉ほいほいじゃないよ、まったく。予習復習だからね!」

バタン!とドアを閉められる。何も言えない弟の目の前を「焼肉ほいほい」と書かれた答案用紙が舞う。もちろん大きなバツがつけられている。自己嫌悪に陥る弟はおもうのだ。俺はこんなことを書いて何がしたかったんだ……焼肉ほいほいじゃないよ、まったく……と。

私の想像力ではこれくらいしか思いつきません。アホ(母)の考えることはわかりかねますね。